指揮:フェルディナント・ライトナー
管弦楽:バイエルン放送交響楽団
(1959年4月/アナログ・セッション録音)
<タワーレコーズ/ドイツ・グラモフォン>PROC-1244
ベルリン・フィルの終身指揮者に選ばれたヘルベルト・フォン・カラヤンと契約を結んだことが大きな契機となって、それまでヨーロッパのローカル・レーベル的な存在であったドイツ・グラモフォンは、一躍世界的なメジャー・レーベルへと変化した。
だがその陰で、徐々に録音の表舞台から姿を消して行った一群の指揮者がいた。
後年NHK交響楽団への客演で我が国でもなじみ深い指揮者となったフェルディナント・ライトナーも、その一人である。
ベルリン・フィルを振ってヴィルヘルム・ケンプを伴奏したベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(ケンプにとっては再録音)や、同じくベルリン・フィルとのプフィッツナーの管弦楽曲集など、これぞドイツの職人技とでもいうべき手堅い音楽づくりで敗戦直後のドイツ・グラモフォンの屋台骨を支えたライトナーだったが、かえってその彼の美質が、国際化を進めるドイツ・グラモフォンにとってはあまり魅力とならなかったのかもしれない。
(それでも、1969年には、バイエルン放送交響楽団らとブゾーニの歌劇『ファウスト博士』を録音したりもしているが)
タワーレコードのヴィンテージコレクションでCD化がなったバイエルン放送交響楽団とのモーツァルトの交響曲集(第36番「リンツ」と第31番「パリ」のほか、バレエ音楽『レ・プティ・リアン』の序曲が収められている)は、ライトナーという指揮者の特性がよく表われた一枚だ。
いわゆるピリオド・スタイルとは無縁だけれど、足取りの重いべたつく行き方とも一線を画しており、モーツァルトの長調の作品の持つ陽性や劇性、音楽の要所急所が巧く押さえられた耳なじみのよい演奏に仕上がっている。
バイエルン放送交響楽団もソロ、アンサンブルともに優れた出来であり、マスタリングの成果だろう、55年前の録音にもかかわらず、音質の難を予想以上に感じない。
収録された3つの曲をよくご存じの方にこそお薦めしたい一枚である。
そうそう、ライトナーといえば、1988年の12月16日に京都会館第1ホールで、NHK交響楽団との第38回NTTコンサートを聴いたことがあった。
徳永二男のソロによるヴァイオリン協奏曲と交響曲第1番というオール・ブラームス・プログラムで、それこそライトナーの職人技に接することができると期待していたのだが、京都会館第1ホールの劣悪な音響より前に、ちょうど同じ日にBUCK-TICKか何かのライヴが第2ホールで開催されていて、彼らのどんやんどわどわという重低音が耳障り以外の何物でもなく(バンドの音楽自体が耳障りってことじゃないので、悪しからず。クラシック音楽を聴きに来たのにこれはないわ、ということ)、ちっとも音楽を愉しむことができなかった。
今もって無念を感じる出来事である。