脚本・演出:作道雄
(2013年6月21日19時開演の回/元・立誠小学校音楽室)
*劇団からのご招待
市川崑や岡本喜八、増村保造らが自らの作品の登場人物に、あっと言う間もあらばこそ、一気呵成速射砲の如く、次から次へと台詞を吐き続けさせたことは、高度経済成長直前の表層的な時代や社会の変化に対する諧謔精神の表われであったり、深い憤りの表われであったりしたわけだけど、月面クロワッサンにとって6回目の本公演となる『オレンジのハイウェイ』で作・演出の作道雄が見せた演者陣のスピーディーなテンポによる台詞のやり取りは、そうした先人たちとは異なって、まさしく疾走する希望とでも呼びたくなるような明度が高くて、軽さを帯びたものだった。
舞台は高速道路、ひょんなことから出会った人たちが、ある目的に向かって動き始め…。
と、これ以上は書いちゃいけないな。
速いテンポの台詞の積み重ねの中から、物語の結構が徐々に明らかになっていくという構成で、後味の悪さのない、小気味のよい作品に仕上がっていた。
初日ということで、アンサンブルの練りの足りない部分が見受けられたのも事実だが、これは公演を重ねるごとにどんどん精度を増していくことだろう。
また、登場人物たちの置かれた状況や彼彼女らが口にする言葉想いが、作道君や月面クロワッサンの面々としっかり重なり合っている点は「私戯曲」の趣きがあって面白かったし、丸山交通公園や山西竜矢ら演者個人の見せ場を用意はしつつも、基本的には上述したようなテンポ感でかっちりと統制のとれた作劇をはかっている点は、今後の劇団の方向性(どのようなお客さんに向けて、何を観せ何を伝えるか)を明確に示した作道君の「創作方法論」、「マニフェスト」となっているように感じられてとても興味深かった。
(これまで作道君の作品に現れていたある重要なモティーフが封印されていることも、たぶんこのことと関係しているかもしれない)
そして、そうした方向性を示すことと、そうした方向性に合わせた演技を演者陣に求めることは、月面クロワッサンの今後のステップアップを考えれば当然のことであるとも、僕は思った。
ただ、だからこそ、公演の本番に到るまでの時間がもっと有効に活かされることを強く望まないでもない。
それは、より速く脚本の第一稿を完成させ、プレプレビュー公演(内覧)を実施した上で改訂作業を行うことによって、演者陣の特性がより深くとらまえられ登場人物の背景陰影がさらに細かく表現された密度の濃い脚本と精度の高いアンサンブルを造り出していく、という風に詳しく言い換えることもできるだろう。
作道君や月面クロワッサンの面々が、例えば、吉本新喜劇のような日々の公演によって培われた演技と芸とアンサンブルの瞬発力に重きを置く団体を目指していくのであればまた話は別だけれど、少なくとも作道君の求めているものは、より完成度の高いウエルメイドなシットコム(シチュエーションコメディ)なのではないか。
もしそうであるならば、来年1月に予定されている次回京都公演に関しては、ぜひそういった点に充分留意してもらえればと願わずにいられない。
丸山君や山西君、小川晶弘、稲葉俊、太田了輔、横山清正ら演者陣は、作品世界によく沿う努力を重ねていた。
僕自身は、黙っている場面、それもほとんど身体を動かしていない場面での、西村花織や森麻子の表情が、彼女ら本人の真情本質を垣間見せているようで非常に印象に残った。