作:田辺剛
演出:筒井加寿子、演出助手:岩田由紀
演出:柏木俊彦
(2012年6月30日、京都芸術センター・フリースペース)
一粒で二度美味しいだなんてべたなことを言いたくなってしまうのが、京都舞台芸術協会プロデュース2012の『建築家M』。
田辺剛書き下ろしの新作戯曲を筒井加寿子と柏木俊彦の二人が演出し分ける(厳密に言えば同じヴァージョンのテキストではないが、そのテキストの選択からしてすでに演出だとも思う)というのだから、これはもう非常に贅沢で興味深い企画である。
と、言うことで、公演二日目、土曜の夜の回を観ることにした。
まず前半筒井加寿子チーム。
当然筒井さんは意図なんかしていないだろうけど、一言で言うと、シャブロル・タッチ、もしくはルネ・クレマン・タッチ(これは、クールキャッツ高杉の風貌がなんとなくチャールズ・ブロンソンに似ていて、しかもその声質もどことなく大塚周夫っぽかったってことが大きいんだけど)。
水沼健が演出したルドルフの『授業』(イヨネスコ作)にも通底するものがあるが、田辺さんのテキストを、寓話性=社会性よりもミステリアスな作品の流れ、スリリングさに重きを置きつつ、スタイリッシュかつカリカチュア的に描き上げようとしたとでも評することができるだろうか。
筒井さんの意図や狙いはよく伝わっていたが、個人的にはさらに派目を外すというか、田辺さんのテキストを徹底的に叩きのめしてもよかったのではないかと思う。
そうすれば、細部に残る粗さや田辺さんのテキストと筒井さんの世界観の齟齬を、さらなる起爆剤に換えることができるように感じたからだ。
渡辺綾子、新田あけみ、クールキャッツ高杉ら演者陣は、筒井さんの演出によく沿う努力を重ねていたと思う。
中でも、建築家という人間の弱さいやたらしさをよく再現した駒田大輔、トリックスター的役回りを存分に演じ切った藤原大介が印象に残った。
一方、後半柏木俊彦チームは、筒井さんのチームを観ていることもあってだけれど、田辺さんのテキストに盛り込まれた様々なもの(作中の何が何につながるかということやカフカのみならずチェーホフからの影響、田辺剛の表現者としての志向や急所等々)が手に取るようにわかる、観ながらおおと感心し、ううんと考えさせられ、やややと驚き、ぐぐっと心惹きつけられる、細やかで面白く、なおかつ批評性に富んだ舞台に仕上がっていた。
(と、言っても全てが具体的具象的に描かれていたというわけではない。そこらあたりも柏木さんの演出の肝になるのではないか)
ライヴ特有の傷はありつつも、今井美佐穂、高杉征司、鈴木正悟、崎田ゆかり、NIWAの演者陣も、自然な緩急とテンポ感を持ったアンサンブルを創り出していたと思う。
いずれにしても、演出というものの意味を再認識するという意味でも観ておいて大正解の公演だった。
ああ、面白かった!